本記事は証券市場に一般的に存在する仕組みを解説する教育目的の内容であり、投資助言ではなく、特定の企業や銘柄、現実の出来事を描写するものではない。

新規株式公開(IPO)の目論見書を開くと、投資家はまず「仮条件」と呼ばれる、上限と下限の差が一割前後もある価格帯に出会う。ところが上場前日になると、その幅はぴたりと一本の数字、「公開価格」に収れんする。この移行はどのような手続きを経ているのか。そしてIPO銘柄が上場直後にしばしば取り沙汰される「価格を支える仕組み」とは、いったい何を指しているのか。答えは、主幹事証券会社が機関投資家の需要を丹念に拾い集める「ブックビルディング」という工程と、上場後の需給を調整するために既存株主から株式を借りて備える「オーバーアロットメント(グリーンシューオプション)」という制度の中にある。

仮条件から公開価格へ、需要を測る作業

IPOの価格形成は、発行体企業と主幹事証券が事業内容や財務指標、類似する既上場企業の株価水準などを踏まえて「仮条件」というレンジを設定するところから始まる。この仮条件が公表されると、主幹事証券は国内外の機関投資家を対象に説明会(ロードショー)を開き、どの価格でどれだけの株数を買いたいかという注文を集めていく。これがブックビルディング(需要積み上げ方式)と呼ばれる工程であり、日本の株式市場でも上場企業の価格決定における標準的な手法として定着している。

集まった注文は単なる件数ではなく、価格帯ごとの厚みとして記録される。上限に近い価格でも旺盛な買い需要が入るのか、それとも下限付近でようやく注文が集まる程度なのかによって、その後の判断材料はまったく異なってくる。主幹事証券はこの需要曲線を分析し、発行体側とも協議したうえで、上場前日に単一の「公開価格」を最終決定する。

なぜ「一本の価格」に絞り込む必要があるのか

複数の価格帯のまま上場させず、単一の公開価格に収れんさせる狙いは、上場後の需給の急激な偏りを避ける点にある。仮条件の上限に近い価格を選べば発行体の調達額は増える一方、需要が薄い水準で無理に価格を高く設定すると、上場後に売り注文が優勢になり株価が公開価格を下回る、いわゆる「公開価格割れ」を招きやすくなる。逆に需要に対して価格を抑えすぎれば、初値が公開価格を大きく上回り、発行体が本来得られたはずの資金を取りこぼす結果にもなりかねない。ブックビルディングは、こうした両極端を避け、需要と供給がなるべく均衡する水準を探る作業だといえる。

上場直後を支えるオーバーアロットメントとグリーンシューオプション

公開価格が決まった後も、主幹事証券の役割は終わらない。上場直後は売買が特に活発になりやすく、株価が想定以上に振れることがある。この変動を和らげるために用いられるのが、オーバーアロットメントと呼ばれる制度である。主幹事証券は正式な発行株数に加えて、既存の大株主からあらかじめ株式を借り受け、その借りた株式を投資家に追加で販売しておく。

上場後、株価が公開価格を下回るように推移した場合、主幹事証券は市場で株式を買い戻し、借りていた株式を返却する。買い支えの分だけ市場に買い注文が入るため、結果として株価の下支えとして機能する。逆に株価が堅調に推移した場合には、発行体や既存株主から追加で新株や株式の発行を受ける権利(いわゆるグリーンシューオプション)を行使して、借りていた株式を返却する。この場合は市場での買い戻しを伴わないため、株価への追加の影響は生じにくい。

いずれの経路をたどるにせよ、この制度は上場直後の一定期間に限り、需給の急激な偏りを緩和する目的で設計された仕組みであり、東京証券取引所に上場する銘柄でも広く用いられている。公開価格の決定とオーバーアロットメントは、どちらも「相場を作る」ためではなく、需要と供給の情報をできる限り正確に価格へ反映させ、上場という節目における市場の混乱を抑えるための実務上の工夫である。