本記事は取引所の規則解説と日本の法令にもとづく一般的な仕組みの解説であり、投資助言ではありません。記載内容は末尾に挙げた公的資料の記述にもとづきます。

分析:返し方が二つしかないことの意味

オーバーアロットメントで売られた分は、証券会社の手元では持ち高の不足として残る。ガイドブックが例外として認めているのは、グリーンシューオプションの行使とシンジケートカバー取引という二つの経路だけだ。前者は発行会社等から新たに株式を取得して貸株人に返す道、後者は市場で買い戻して返す道である。どちらを選ぶかは、上場後の株価が公開価格の水準と比べてどこにあるかによって実務上分かれる。

ここから読み取れるのは、上場直後の一定期間、需給の一部が制度的に固定されているという事実である。継続所有の確約により大株主の売却は原則として止められ、その同じ株式の一部が貸株として市場に出て、後日どちらかの経路で戻る。安定操作取引はさらに別枠で、期間も価格上限も施行令で決まっている。上場初日の板は、自由な売買だけで構成されているわけではない。

読み取れないことも明確だ。規則と施行令は、公開価格がどう決まるかの手続き、需要の集め方の制約、記録の保存、貸株が認められる例外の範囲、安定操作の期間と価格上限までを定めているが、公開価格の水準が妥当かどうかについては何も述べていない。仮条件の根拠は書面で公表されるものの、需要状況そのものは五年間の保存記録として東証の請求に応じる対象であり、日々の投資家が見られるものではない。

目論見書と上場時の開示で確かめられるのは、仮条件の範囲と公開価格、公募と売出しの株数の内訳、オーバーアロットメントによる売出株式数、グリーンシューオプションの有無と行使期間、そして安定操作取引が行われることがある旨の記載である。上場直後の需給を読むなら、この五点の実際の数字と記載が出発点になる。

文書が示す事実

新規上場の初日、市場に出回る株式の一部は、その時点で誰かから借りたものである。オーバーアロットメントによる売出しがそれだ。借りた株式である以上、いつか返さなければならず、返し方は取引所の規則と証券会社の実務であらかじめ二通りに絞られている。公開価格がどう決まるかという手前の話と合わせて見ると、上場直後の需給が制度でどこまで形づけられているかが分かる。

公開価格が決まるまでの二段階

東証の新規上場ガイドブックによれば、公開価格の決定はまず仮条件から始まる。申請会社および元引受取引参加者は、申請会社の財政状態および経営成績、有価証券に対する投資に係る専門的知識および経験を有する者の意見その他の参考となる資料と意見を総合的に勘案し、公開価格に係る仮条件、すなわち投資者の需要状況の調査を行う際に投資者に提示する価格の範囲等を決定する(規則第256条)。元引受取引参加者は仮条件と決定の理由等を直ちに書面により公表し、その写しを東証に提出しなければならない。

次がブック・ビルディングである。元引受取引参加者は需要状況を適正に把握するため、ブック・ビルディングの方法に関する指針を策定し、それに基づいて需要を集める(規則第255条)。集めてよい需要にも線がある。投資者の計算によらないことが明らかな需要や、一人の投資者の需要が重複している場合の重複分の需要等、配分の対象とならないことが明らかに見込まれる需要は、把握すべき需要に含めることができない(規則第257条)。

そのうえで、把握した需要状況に基づき、上場日までの期間における株式相場の変動により発生し得る危険および需要見通し等を総合的に勘案して公開価格が決まる(規則第247条第1項)。記録も残る。元引受取引参加者は、上場前の公募等の申込期間終了の日から五年間、把握した需要状況についての記録を保存し、東証の提出請求または検査に応じなければならない(規則第258条)。

借りた株式はどこから来るのか

オーバーアロットメントによる売出しは、公募や引受人の買取引受による売出しに上乗せして行われる。ガイドブックの費用計算例では、公募100,000株、引受人の買取引受による売出し50,000株に対し、オーバーアロットメントによる売出しは20,000株として示され、公募または売出価格は2,560円と置かれている。上場料の計算上も、売出株式数にはオーバーアロットメントによる売出株式数が含まれる。

この株式は市場から調達されるわけではない。東証は、上場前に第三者割当等で株式の割当てを受けた者に対し、原則として割当てを受けた日から上場日以後6か月間を経過する日まで所有することを確約させている(規則第268条第1項)。払込期日または払込期間の最終日以後1年間を経過していない場合は、その1年間を経過する日まで延びる。この継続所有期間中は、所有権の移転を伴う株式の消費貸借契約、つまり貸株取引は認められない。

ただし例外が一つ置かれている。ガイドブックは、上場時ファイナンスにてオーバーアロットメントによる売出しを行う場合、実務慣行を勘案し、証券会社がグリーンシューオプションを行使またはシンジケートカバー取引を実施することにより貸株人である大株主等に株式を返還する場合に限り、例外的に継続所有期間中の株式の貸付けが認められるとしている。上場直後に出回る借株の出どころは、この例外の中にある。

安定操作取引は別の枠にある

上場直後の値動きに関わるもう一つの制度が安定操作取引である。金融商品取引法第百五十九条第三項は、何人も政令で定めるところに違反して、取引所金融商品市場における相場をくぎ付けし、固定し、または安定させる目的をもって一連の有価証券売買等をしてはならないとしたうえで、その例外の細目を政令に委ねている。

この政令、金融商品取引法施行令が期間と価格を細かく縛る。募集の場合、株主割当て以外では、有価証券の取得の申込みの期間が終了する日の二十日前の日から当該期間が終了する日までが期間となり、売出しの場合も買付けの申込みの期間が終了する日の二十日前の日からその期間の終了日までとされる(第二十二条第二項)。

価格の上限も定められている。安定操作開始日の最初の安定操作取引は主たる取引所金融商品市場における前日の最終価格を基準とし、その後に行う取引は当該金融商品取引業者の安定操作開始価格を上限とする。開始日後は、安定操作開始価格と前日の安定操作基準最終価格のうちいずれか低い価格が上限になる(第二十四条第一項)。安定操作取引が行われることがある旨は、あらかじめ目論見書等に記載されていなければならない。