本記事は取引所規則と証券金融会社の公表資料にもとづく一般的な仕組みの解説であり、投資助言ではありません。記載内容は末尾に挙げた公的資料の記述にもとづきます。

分析:跳ね上がりは需給だけの産物ではない

逆日歩が急に大きくなる場面を分解すると、三つの要素が同時に効いていることが多い。株不足そのもの、品貸日数の伸び、そして最高料率の倍率適用である。前の二つは需給と暦の問題だが、三つ目は規則表に書かれた乗数であり、日付を見れば事前に把握できる。権利落日の前営業日という一日だけ上限が4倍になり、そこに注意喚起が重なれば8倍になる、という構造は、株価チャートには一切現れない。

入札に人が集まらない理由も、この制度の内側にある。日本証券金融は、上場企業の株式を保有して権利確定日を迎えれば株主議決権を得ることになるが、品貸入札で採用された場合は名義が落ちて議決権を得られないため、決算期が接近した場合などは名義を確保したい入札参加者が入札を見合わせることが多く、結果的に品貸料率も上昇する傾向にあると説明している。株を貸せる主体が減る時期と、上限が引き上げられる時期が重なるわけだ。

同社は、入札参加者の動向や銘柄の需給関係等によっては、貸株超過株数の増減と品貸料率の動きが一致しない場合もあるとも述べている。ここは読み違えやすい。貸株超過が積み上がっているという事実は、料率がどこまで上がるかを決めない。決めるのは、その日に何円で応札する在庫がどれだけ出てきたかである。

この制度が確立していることと、していないことは分けて考えるべきだ。規則が保証しているのは、料率の決まり方、支払いと受取りの向き、上限の水準と倍率の適用条件までである。売り方が最終的にいくら負担するかは、入札結果と品貸日数が確定して初めて分かる。制度信用と一般信用のどちらで注文を出すかという最初の選択が、この一連の仕組みに乗るかどうかを決めている。

文書が示す事実

信用取引の売り方が、ある朝いきなり大きな支払いを求められることがある。原因は株価ではなく、品貸料、通称「逆日歩」だ。この料率は市場の板から生まれるものではなく、証券金融会社が毎日行う入札で決まる。そして入札にかけられるかどうかは、その銘柄が制度信用取引の対象かどうかで最初から分かれている。

二つの信用取引はどこで分かれるか

東京証券取引所の説明では、信用取引には、返済期限が6か月以内であること、品貸料を授受すること、対象銘柄等が証券取引所の規則により定められている「制度信用取引」と、返済期限等について証券会社と顧客との間で合意した内容に従って行う「一般信用取引」がある。投資家は注文を出す時点でどちらかを選ぶ。

決済の裏側はさらに違う。日本証券金融の説明によれば、制度信用取引で証券会社に必要な資金または株式が不足している場合、証券会社は売買の決済に必要な売付株式および買付代金を証券金融会社から借り入れることができる。これが貸借取引である。一方、一般信用取引の決済のために証券会社が貸借取引を利用することはできない。一般信用に逆日歩が付かないのは、価格が優しいからではなく、料率を決める入札そのものにつながっていないからだ。

担保の枠組みは共通している。委託保証金は買付代金、売付代金の30%以上(レバレッジ型・ダブルインバース型ETFおよびETNの場合は60%以上)と定められ、現金のほか有価証券でも代用できる。当初の委託保証金から損失や費用を差し引いた金額が売買代金の20%を下回ると、追加の保証金を差し入れることになる。

貸株超過が起きたときに何が動くか

証券金融会社は、証券会社から受け付けた貸借申込を社内対当させたうえで、貸株残高が融資残高を上回った場合、別途貸付株式を調達する必要が生じる。手順は二段構えだ。まず申込日の翌営業日に、証券会社からの融資の追加申込、いわゆる翌朝訂正を受け付けて超過部分を埋める。それと並行して、証券会社や機関投資家等から入札によって不足株式を調達する。

入札の採用順序は決まっている。料率の低い申込みから、同料率の場合は申込み時間が早いものから優先して採用し、調達必要株数に達した申込みに付された料率が品貸料になる。証券金融会社はこれに品貸日数を乗じたものを品貸料率として発表する。翌朝訂正で貸株超過が解消した場合は該当日の品貸料率は発生せず、0銭の品貸し申込みで必要株数を調達できた場合には0.00と表示される。

品貸日数も日付の並びで動く。品貸入札により不足株式を調達する銘柄では、貸借取引申込日から起算して3営業日目に借入れが起こり、返済期日は通常その翌日となるため品貸日数は1日になる。借入日の翌日が休日であれば返済日が繰り延べられ、品貸日数は繰り延べ日数に応じて増える。連休をまたぐと同じ料率でも請求額が積み上がるのはこのためだ。

上限はあるが、その上限が動く

品貸入札では申込みを受け付ける料率に上限が設けられており、これを最高料率という。最高料率は、貸借値段に売買単位を乗じた投資単位に応じてあらかじめ定められている。つまり同じ「一株あたり何円」でも、株価水準の違う銘柄では上限そのものが違う。

この上限は固定ではない。日本証券金融は、配当や新株引受権等の権利付銘柄について、権利落日6営業日前から権利落日2営業日前まで2倍、権利落日の前営業日は4倍の倍率を適用するとしている。注意喚起通知銘柄は通知日の翌営業日から取消日の前営業日まで2倍、申込制限措置銘柄および申込停止措置銘柄は実施日から解除日の前営業日まで2倍である。権利付銘柄が同時に注意喚起や措置の対象であれば4倍、権利落日の前営業日に重なれば8倍になる。

さらに、こうした条件に合致しない銘柄でも、異常な貸株超過状態が生じている銘柄またはその恐れがある銘柄等には、本来の最高料率に4倍または10倍の倍率を適用する臨時措置が講じられる場合がある。