本記事は日本の法令と取引所規則にもとづく一般的な仕組みの解説であり、投資助言ではありません。記載内容は末尾に挙げた公的資料の記述にもとづきます。

分析:制度が違えば株主に渡される情報も違う

東証が平成11年1月19日付の通知で整理した論点は、今も三つの経路の性格をよく説明している。同通知は、市場買付けについて、株価水準や市場動向を見ながら機動的な買付けが可能である一方、インサイダー取引規制との関係で社内管理体制の確立が必要であり、相場操縦規制との関係で価格、タイミング、買付株数に留意が必要だとする。公開買付けについては、機動性等が制限され、法定公告等によりコスト高となる面を挙げている。手続きの重さは、そのまま買い手の自由度と裏腹になっている。

同じ通知は、事前公表型のToSTNeT-2による買付けについて、前日終値で買付けを行うことができ、買付価格が需給バランスで結果的に左右されないと述べたうえで、特定の売方に生じるインサイダー取引規制の問題に対応するため、事前に買付内容を公表したうえで取引を行うことが必要だとしている。大株主が売り手として想定されているかどうかが、事前公表を必要とするかどうかの分かれ目になっている。

ここから読み取れることと読み取れないことは、はっきり分けておくべきだ。三つの経路の違いが決めているのは、値段が誰の手で決まるか、株主に応募という選択が与えられるか、そして情報がいつ市場に出るかであって、取得後の株価がどう動くかではない。会社法も金融商品取引法も、その点については何も約束していない。

開示を読む側が確かめられるのは、取締役会決議で定められた取得する株式の数と取得価額の総額の上限および取得期間、選ばれた取得方法、そして各報告月の翌月十五日までに提出される買付けの状況の報告書である。方式の名前ではなく、この三点の実際の記載が、その自社株買いの中身を示している。

文書が示す事実

同じ「自社株買い」という言葉でも、根拠となる条文と手続きは一つではない。会社法は、株主との合意により会社が自己の株式を有償で取得するには、取得する株式の数、株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容および総額、株式を取得することができる期間を、あらかじめ株主総会の決議で定めなければならないとしている(第百五十六条第一項)。同項ただし書は、その期間が一年を超えることができないとも定める。枠の決議はここまでで、実際にどの経路で買うかは、この先で分かれる。

会社法が引いた二つの経路

第百六十五条第一項は、会社が市場において行う取引と、金融商品取引法第二十七条の二第六項に規定する公開買付けの方法とをまとめて「市場取引等」と呼ぶ。この二つによって自社株を取得する場合には、特定の株主から買い取るときの通知や売主追加請求の手続き(第百五十七条から第百六十条まで)が適用されない。裏返せば、それ以外の相対取得では、特定の株主に売却の通知を行う旨を株主総会の決議で定め、他の株主が自分をも議案に加えるよう請求できる仕組みが働く。市場取引等はこの重い手続きの外側にある。

同条第二項は、取締役会設置会社が、市場取引等により自社株を取得することを取締役会の決議で定められる旨を定款に置けると規定する。上場会社の自社株買いが取締役会決議として発表されるのはこのためだ。もっとも金額の天井は別にある。第四百六十一条は、自己株式の有償取得を含む一定の行為で株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額が、効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないと定めている。

発行者による公開買付けが義務になる場面

金融商品取引法第二十七条の二十二の二第一項は、上場株券等の発行者自身による取引所金融商品市場外における買付け等のうち、会社法第百五十六条第一項の規定による買付け等に当たるものは、公開買付けによらなければならないと定める。ただし書で、取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引は除かれる。つまり、市場の外で発行会社が自社株を買い集める行為は、原則として公開買付け、すなわちTOBの手続きに乗せられる。

同条第二項は、公開買付届出書の提出や買付条件等の変更の制限など、通常の公開買付けの規定群を発行者による買付けに準用する。応募が予定数を上回った場合の処理も準用の対象で、第二十七条の十三第五項に規定するあん分比例方式により買付け等をする上場株券等の数が確定する。買付けが終われば手続きは開示に戻る。第二十四条の六第一項は、株主総会または取締役会の決議等があった場合、各報告月の翌月十五日までに、その月の買付けの状況(買付けを行わなかった場合を含む)を記載した報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないと定めている。

立会外取引という第三の経路

東京証券取引所は、立会市場での買付けのほかに、ToSTNeT-2およびToSTNeT-3を使った自己株式の取得を認めている。このうち自己株式立会外買付取引の取引時間は午前8時45分の一点で、売注文の受付は午前8時から午前8時45分までとされる。取引価格は前日終値(最終特別気配値および最終連続約定気配値を含み、いずれもない場合は当日の基準値段)で、会社側が値決めをする余地はない。決済は3日目決済である。

配分の順序も規則で固定されている。委託注文が自己注文に優先し、売申込数量の多い取引参加者から最低単位を配分したうえで、残数量にあん分比率を乗じた数量を対当させる。東証が公表する実施日程例では、取締役会決議の当日、15:45に東証の終値で買付価格が決まり、上場会社は証券会社を通じて17時までに自己株式立会外買付届出書を出し、16:00に自己株式の取得と具体的な取得方法がTDnetに登録される流れが示されている。