本記事は、市場の仕組みを一般的に解説する教育目的の記事であり、投資助言ではありません。特定の現在の出来事、企業、銘柄について述べるものではありません。

同じ銘柄を空売りしているのに、ある投資家には金利のような負担が発生し、別の投資家には無縁ということがある。しかも、その負担額は日によって数円から数千円へと跳ね上がることさえある。この違いを生む鍵は、日本の信用取引が実は二つの異なる制度からできている、という点にある。一つは証券取引所が細部までルールを定める「制度信用取引」、もう一つは投資家と証券会社が個別に条件を取り決める「一般信用取引」だ。両者の違いを理解すると、「逆日歩(ぎゃくひぶ)」と呼ばれる特殊な費用がなぜ、どのようにして発生するのかが見えてくる。

制度信用取引:取引所が定める共通ルール

制度信用取引は、東京証券取引所をはじめとする金融商品取引所が、対象銘柄や返済期限、品貸料の基準などをあらかじめ定めている信用取引の形態である。買い方(信用買い)、売り方(信用売り、いわゆる空売り)のいずれも、原則として最長6カ月以内に反対売買や現物の受け渡しによってポジションを解消しなければならないという、返済期限の定めがある。

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対象となる銘柄も、取引所が上場銘柄の中から選定した「制度信用銘柄」に限られる。これにより、どの証券会社を通じて取引しても、同じ銘柄であれば基本的なルールは共通になる。証券会社は、顧客から預かった信用取引の担保(委託保証金)を用いて、証券金融会社などから資金や株式を調達し、顧客の注文を成立させる。この資金や株式の融通の仕組みが、後述する逆日歩の発生と密接に関わってくる。

一般信用取引:証券会社との相対契約

これに対して一般信用取引は、返済期限や対象銘柄、金利水準などを、投資家と証券会社が個別の契約として取り決める信用取引である。証券会社が独自の判断で品揃えを決めるため、制度信用取引の対象外となっている銘柄でも、一般信用取引であれば取り扱われている場合がある。返済期限も、証券会社によっては期限を定めない商品を用意していることがあり、短期の値動きを狙う場合だけでなく、比較的長い期間ポジションを持ち続けたい投資家にも利用されている。

一般信用取引では、証券会社が自社の資金や、自社で保有ないし調達した株式を用いて取引を成立させることが多く、制度信用取引のように取引所レベルで統一された品貸料の基準が適用されるわけではない。そのため、金利や貸株料の水準は証券会社ごと、銘柄ごとに異なり、同じ銘柄であっても制度信用取引と一般信用取引とではコスト構造が違う、という状況が生まれる。

逆日歩:品薄が生む特殊なコスト

逆日歩が関わってくるのは、主に制度信用取引における空売りの場面である。投資家が制度信用取引で株式を空売りすると、証券会社は証券金融会社からその株式を借りて市場に売り渡す。証券金融会社は、必要な株式を自社の保有分や、その銘柄を現物で保有する投資家からの貸株(品貸し)によって調達する。

ところが、ある銘柄に空売りの注文が集中し、証券金融会社が用意できる貸株の量に対して借り手の需要が上回ると、いわゆる「品薄」の状態になる。この状態を解消するため、証券金融会社は市場で株式を確保する入札を行い、そこで生じる調達コストを、その銘柄を空売りしている投資家全員で負担する。これが逆日歩であり、空売りをしている投資家が支払い、現物株を証券金融会社に貸し出す形になっている投資家が受け取る仕組みになっている。品薄の度合いが強いほど逆日歩の水準は高くなり、需給が緩和されればゼロに戻ることもある。この変動幅の大きさゆえに、逆日歩は信用取引、特に空売りにおいて見落とされがちなコスト要因としてしばしば話題にのぼる。なお、一般信用取引は証券会社ごとの相対契約であるため、この意味での逆日歩は基本的に発生しない仕組みになっている。